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狼煙村の北海道移住

 明治時代に入ってから狼煙村からの北海道移住については、奥尻島へ移った宇苗長造という人物がいます。宇苗長造氏は明治10年(1877)に狼煙村から渡道し、奥尻島での開墾・特産物の開発に大きく貢献し、青苗・薬師村の総代も務めた功労者と云われています。「北海道史附録人名字彙原稿」には宇苗長造氏が狼煙村から北海道へ移住する経緯が書かれており、明治維新後の狼煙村の生活をうかがうことができます。

■狼煙村の北海道移住は明治維新が引き金となった?
 「北海道史附録人名字彙原稿」は「北海道史」の附録として計画された北海道史関係の人名事典の草稿です。以下は宇苗長造氏の項目中、冒頭部で明治維新による狼煙村の生活の変化を述べている箇所を現代語訳したものです。

(現代語訳)
 宇苗長造
 奥尻島の開拓における功労者で、天保9年2月に能登国珠洲郡西海村大字狼煙の漁家に生まれました。
 狼煙は土壌焼物の生産が寡少でしたので、藩主より毎年糧米800石を与えられて、これを償うために製塩1万俵を上納することを決まりとして、これによって村民は生計を立てていました。しかし、明治維新後は、この制度が廃絶してしまい、村民は大いに糧口に窮することとなりました
 そのため、宇苗長造は北海道移住を企画し、明治10年5月に家財を売却し、家族5人を携えて、函館に渡航するに至りました。

 この資料から、加賀藩政時代には狼煙村の収入源がいかに製塩業に依存していたかが分かります。明治維新によって、藩政で定めていた製塩による収入がなくなり、かつ当時、製塩が唯一の産業だった狼煙村民の生活は困窮を極めたに違いありません。

 宇苗長造氏はその打開策として北海道移住に踏み切ったようです。上述の文献には、家財を売却して、家族で函館に渡航したとありますが、狼煙浦野家もこれとほぼ同じような経緯で北海道へ移住したのではないでしょうか。浦野家も宇苗家と同様に、一家で函館に渡航していますし、旧土地台帳には浦野家の土地を競売にかけた記録も残されています。おそらくは狼煙村にあった資産を全て売却して渡道したのかもしれません。


■宇苗長造の奥尻島開拓
 宇苗長造が一家で狼煙村から渡道したのは明治10年(1877)5月のことで、函館に渡航した後、長造は札幌に出て商業を営みました。どのような商業かは不明ですが、業績は思わしくなかったらしく、各地を転々として、明治17年2月に函館より奥尻島に渡って、青苗村に住み、漁業に専念しました。
 しかし、明治22年頃より、年々薄漁のため、村民の生活は困窮に至りました。そこで、宇苗長造は村民の菊池竹三郎、飛山惣兵衛、赤坂福蔵などと協議して、窮民救済のため、奥尻島の開墾をすることを良策と掲げ、官林の解除を請願しました。その結果、各2000坪内外の土地貸付を受け、開墾に従事することになりました。
 この時、宇苗長造は1町歩を開き、更に明治29年には青苗村字ワサビ谷地において、水田約1町歩の試作にも成功しました。そして、長造によるこの水稲試作の成功は奥尻島での水田開墾の嚆矢となったのです。
 明治32年には同地において未開地30町歩の貸付を得て、3年間に資金700円を投じて、小作人9戸を募入しました。明治42年には産馬改良を企てて、その翌年に八雲村の松本嘉七から種牡馬を購入して広く種付けを行い、大正5年までに産駒は120頭に達しました。
 その後、明治28年には同島でホタテ貝の製造を開始しました。長造は青苗、鴨石、仲濱の3箇所に漁場を設けて、5千円余りの収益を見ていましたが、不幸にもその年の11月に製造所が火災に見舞われ、数千円の損害を被ってしまいました。しかし、翌年には更に多数の漁夫を募り、製法を改良して、遂にホタテ貝柱を奥尻島の特産物として、豊漁の年は1万円以上の売り上げをあげたと云われています。
 宇苗長造は性格温和かつ品行方正で徳望もあったそうです。明治25年5月には青苗、薬師両村の総代も務めました。そして、大正5年7月4日に病によって他界しました。享年79歳でした。

※この「北海道史附録人名字彙原稿」については、当サイトをご覧になっていた北海道旭川市の上田様が北海道大学付属図書館の所蔵文書から発見したものを提供していただきました。上田様にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます(「調査にご協力頂いた方々の紹介」参照)。

<参考文献>
  • 北海道史附録人名字彙原稿 甲1 (北海道史編纂掛)


                       

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